
高機能自閉症、アスペルガー症候群など、自閉症スペクトラムの人たちは、うつや不安障害になりやすい認知の特性をもっています。
大人になって自閉症やアスペルガー症候群、広汎性発達障害などの診断を受けた方の多くが、うつや不安障害などの発症をきっかけに発達障がいを疑われるケースが多いといわれていますし、
私のところへ相談に来てくれた方のほとんどが、そうでした。
また、子どもの場合も、不登校やうつや不安障害など2次障害をきっかけに専門医を尋ね、発達障がいの診断を受けることが圧倒的に多いと、専門医から聞きました。
成人前に診断を受けている方でも、うつや不安障害などになる方が多く、高機能自閉症の当事者として有名なテンプル・グランディンさんも、本の中でこう記しています。
自閉症の世界では、抗鬱薬で救われた人が少なくありません。私は20代の頃、絶え間ない不安とパニック発作で、症状がどんどん悪化していました。
〈テンプル・グランティン・自閉症感覚―かくれた能力を引きだす方法
より〉
なぜうつや不安障害になりやすいのでしょうか?
自閉症スペクトラムの人が、うつや不安障害になりやすい要因は、自閉症スペクトラム特有の様々な脳機能の特性から考えられ、中でも、自閉症の診断基準となる4つ組が大きな影響を与えています。
自閉症の4つの特徴とは?
①社会性の質的な障害
コミュニケーションの質的な障害
③イマジネーション(想像力)の質的な障害
④こだわり
これらの自閉症の代表的な特徴は、
- 思考の柔軟性の欠如
- 想像力の欠如
- 先の見通しが立てられない
- 複数の情報を処理することが難しい脳の機能
- 頭の中で絵を描いて考える思考の特徴
- 他の人と協力して考えたり作業をすることが難しい(共同注視の困難)
以上のような脳の機能(認知)が要因となって、4つの自閉症の特徴が表出されるのです。
そして、自閉症特有の脳の特性要因(内的な要因)とまわりの環境(人・物・あそび・学習などの外的な要因)との相互作用で、うつや不安障害などを発症してしまうのですね。
※参考記事 ⇒ 自閉症・広汎性発達障がい・アスペルガー症候群の特性
ストレスに弱いことも関係している?
発達障がいの人はストレスに弱いといわれています。
ストレスとは、ゴムボールを棒で押すとゴムボールは、棒で押されてへこんだところを戻そうとしますよね。
その戻そうとする力のことをストレスといい、自閉症スペクトラムの人たちは、様々な脳機能の特性から、本人が落ち着ける時間・環境を除いて、常にストレス状態にあるのです。
発達障がいの人たちはストレスに弱いのでなはく、 正しくは、常にストレスを抱えた状態にある ということです。
あるアスペルガー症候群の方は、毎日、真っ暗闇の中を歩いているようだと言っていました。
うつや不安障害になってしまったときの治療
うつや不安障害になってしまったら、基本的には薬による治療が行われます。
本人の状態に応じて、薬を服用しながら認知行動療法などを、行うのが一般的です。
認知行動療法は、軽い状態であれば薬を服用せずに回復することができますし、薬を服用している場合でも、早期回復や再発防止に役立ちます。
なので、ここ数年の間に、多くのクリニックで認知行動療法が行えるようになってきました。
発達障がいに認知行動療法は効果があるか?
認知行動療法は、うつや不安障害などの原因となる考え方のクセを修正し、行動パターンを変えることで、早期回復と、うつになりにくい考え方のクセを身につけることができる、根本的な改善が見込める治療法です。
しかし、私のクライアントの場合、認知行動療法をやる段階になると、99%の方が来てくれなくなりました。
認知行動療法という薬を用いずに治す方法があっても、発達障がいの人には、最初の一歩すらハードルが高いのです。
自閉症の専門家として有名な佐々木正美先生も講演の中でおっしゃっていましたが、
彼らは直されることを嫌がるのです。
佐々木先生の言葉は、本当にそのとおりだと思います。
自閉症の人が、うつや不安障害になってしまうと薬での対処療法しかできず、根本的な改善が難しい場合が多いため、うつが治りにくく、長期間辛く苦しい体験をさせてしまいます。
うつや不安障害など2次障害にならないためには?
そもそも自閉症スペクトラムの人たちは、私たちが通常体験できないような、ストレスを抱えて日々過ごしています。
うつや不安障害にならないためには、まず日々のストレスを減らしてあげなければなりません。
そして子どもの頃から保護的な環境で、自分に自信が持てる心、自分に信頼できる心、自分に安心できる心が持てるように、子どもの特性に合わせてハードル設定をし、育てることです。
最後に
私のところへ来てくれた発達障がいの人の全員が、うつや不安障害を経験していました。長期にわたる治療で、仕事は出来なくなり、引きこもり状態になった人も中にはいました。
発達障がい児者が、うつや不安障害になってしまったら、本人たちはさらに苦しむことなります。
本人だけでなく、家族も精神的に追い詰められるケースがたくさんあるんですね。
うつの治療は、長期にわたって薬を服用することが多く、根本的な改善は非常に難しいといえますし、うつの効果的な治療法といわれる認知行動療法をやろうとしても、本人たちは強い恐怖感を抱き、やってもらうことすら難しく、やったとしても、効果が出るのに時間がかかる、または効果がない場合もあるのです。
ですから、発達障がい児者が、うつや不安障害にならないためには、徹底して、幼少期から子どもに合わせた子育てと支援が必要だと私は自信を持っていえることができます。
発達障がいの子どもたちは、みんながんばって生きていること、この世の中で生きて行くというだけで、すでに努力を強いられていることを、私たちは理解してあげたいですね。